このブログではTV中継のバッテリーの攻防をより面白いものに感じられるような情報を提供します。
2024年のAll MLB 2ndチームの選手を取り上げています。選出メンバーについては、MLB.comのサイトを参照してください。
今回は、2ndチームの遊撃手であるフランシスコ・リンドーア選手。
「悪童」からは程遠いと思われるMr. Smile(スマイリー・リンドーア)の愛称で知られるメッツのチームリーダーです。
試合後に全選手に声をかけたり、選手だけのミーディングの発起人になったり、あのソト選手がリーダーシップに感銘を受けたりと、そのリーダーシップでチームから大きな信頼を勝ち得ています。
あの笑顔でのプレイを見ていると観客側も野球を楽しく感じられるような気になります。筆者もずっと大好きな選手です。
リンドーア選手がデビューして活躍し始めたころには、同郷(プエルトリコ)ということもあってかカルロス・コレア選手やハビア・バイエズ選手と比較されることが多かったように記憶しています。
特にバイエズ選手とは幼馴染で、幼少期から現在に至るまでライバルかつ親友関係を継続しているとも言われています。
概要
このブログが打撃に焦点を当てているため、守備力が高い選手についてはその魅力を存分に語り切れないのですが、リンドーア選手もそれらの選手の1人です。
打撃、守備、走塁のどの部門でも高いパフォーマンスを発揮しているリンドーア選手ですが、各種スタッツから判断すると、3分野の中では守備能力が最も突出しています。
MLBのエリートが集まる遊撃手で毎年トップクラスの評価(スタットキャストFielding Run Value参照)を叩き出し、執筆時点でゴールド・グラブ2回受賞、さらにリーグで一番守備が上手と評価された選手に贈られるプラチナ・グラブ賞も受賞しています。
傑出した守備能力に加えて、毎年OPS .800以上を残せる打撃能力、30盗塁を決めることもできる走塁能力まで備えていること(結果、WARの高数値につながる)がこのリンドーア選手の素晴らしさと言えます。
走塁能力の評価をする際に盗塁数を使うことがありますが、数値としてわかりやすいからというだけで、本来、走塁能力はベースランニングなども含めて評価すべきものです。
打率 | 本塁打 | 打点 | 出塁率 | OPS | +OPS | BB% | K% | 盗塁 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
.273 | 33 | 91 | .344 | .844 | 139 | 8.1% | 18.4% | 29 |
カウント別
MLB打者の平均的傾向 2ストライクでの打撃成績は打率・出塁率・長打率すべてで急降下
- 各ストライクでの打率/出塁率/長打率
- 0ストライク .336/.390/.577
- 1ストライク .326/.391/.538
- 2ストライク .168/.244/.264
フランシスコ・リンドーア選手の傾向をまとめると下記の通りです。
- キャリア全体では右打席(=左投手)の方が、右打席と左打席で得意なコースが完全に異なっている。
- シーズン前半より後半の方が好成績を出す傾向が強い。
- 引っ張り傾向があり、引っ張った方向にフライボールやラインドライブを高い確率で打てる(どちらの率もMLB平均を大きく上回る)。
- キャリア全体で左投手のカーブはかなり苦手にしていたが、2024年はよく打っていた。
- 右投手に関しては明らかな苦手球種はないが、スイーパー、スライダーにはやや手こずている。
打撃成績では、Mets移籍後ベストであった2024年シーズン。
9/30の劇的2ラン本塁打、ディビジョンシリーズの満塁本塁打などクラッチヒットも連発と印象に残る活躍をしていました。
三振が少なく、コンタクト能力も高く、少しボール球を追いかけていく傾向があるので、ちょっと意外な感じもしましたが、初球スイング率は平均よりもだいぶ低いです(25.7%に対し、MLB平均は32.1%)。
右打席と左打席だと傾向はかなり異なっていますね。
まず、右打席は高めに強く、左打席は低めを得意としています。
また、上述のように不得意な球種も変わってくるので、右投手と左投手ではリンドーア選手に対する印象が違うのではないかと思います。
数少ない共通点というと、両サイドの高めのフォーシームが打てていないことです。つまり、このボールを見せ球もしくは勝負球には右投手でも左投手でも使えるということですね。
両サイドに高めのフォーシーム&不得意球種という形をベースにして配球を組み立てていくのが、オーソドックスではあるのですが、一番有効な攻め方と考えます。
スウィング
MLB.comが提供するスタットキャストに2024年5月に追加された「バット・トラッキング」から抜粋しています(用語の説明は別途)。
順位が高いほうがよいものももちろんありますが、各選手のスウィングの個性が現れます。
スウィングの個性が現れた例
大振りパワーヒッターの典型であるスタントン選手とこれまた安打製造機の典型であるアライズ選手の比較がこちら。
スウィングにパワーを持たせたいスタントン選手は平均バット・スピード、ファスト・スウィング率(75マイル/h以上のスウィング)でMLBトップの数字であるが、コンパクトなスウィングでバットの芯(スウィートスポット)に当てることに長けたアライズ選手はなんと平均バット・スピード、ファスト・スウィング率でMLB最下位。
一方、どれだけ芯に近い場所で打つことができたかを示すスクエア・アップ率はアライズ選手がMLBトップで、スタントン選手はMLB平均以下。
ちなみに、ボールに当たるまでのスウィングの距離を測る「スウィング軌道距離」でも、スタントン選手がMLB最長、アライズ選手がMLB最短と両極端な個性が指標から読み取れます。
平均バットスピード | ファストスウィング率 | スウィング軌道距離 | スクエアアップ率 | |
---|---|---|---|---|
スタントン | 81.3m/h | 98.7% | 8.6ft | 20.8% |
アライズ | 63.2m/h | 0.3% | 6.0ft | 43.9% |
リンドーア選手は、ベッツ選手やアルトゥーベ選手と同様、体格に恵まれているわけではないのですが、スウィングの特徴はかなり異なっています。
リンドーア選手の身体能力やバネによるものなのか、ボールに対するコンタクト能力がもともと秀でているからなのか、その両方が原因なのかわからない部分はありますが、スウィングスピードは平均を超え、バレル率もかなりの上位にいます。
体格に恵まれないプレイヤーが、パワーを感じさせる数値を出し、実際に30本程度の本塁打を打ってしまっているというのは珍しい事例と感じます。
2024 | 個人 | MLB順位 | MLB平均 |
---|---|---|---|
平均バットスピード | 72.4m/h | 86 | 71.5m/h |
ファスト・スウィング率 | 23.6% | 89 | 22.5% |
スウィング軌道距離 | 7.6ft | 58 | 7.3ft |
スクエア・アップ率 | 28.7% | 40 | 25.0% |
ブラスト・スウィング率 | 14.0% | 28 | 10.3% |
バレル率 | 13.6% | 15 | - |
詳細データ
上に書いた内容のエビデンスデータを記載しています。
このデータを使って、「自分だったらどの球種、どのコースで取るか」を考えていただくのも野球の1つの楽しみ方だと思います(もちろん走者やアウトの数や投手の持ち球によって変わりますけどね)。
カウント別詳細
個人
カウント別 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
---|---|---|---|---|
初球 | .365 | .394 | .746 | 1.140 |
1-0 | .238 | .238 | .333 | .571 |
2-0 | .563 | .563 | 1.063 | 1.625 |
3-0 | .000 | .900 | .000 | .900 |
0-1 | .373 | .403 | .507 | .910 |
1-1 | .317 | .311 | .583 | .895 |
2-1 | .389 | .421 | .944 | 1.365 |
3-1 | .438 | .727 | .625 | 1.352 |
0-2 | .283 | .283 | .467 | .750 |
1-2 | .160 | .176 | .311 | .487 |
2-2 | .184 | .182 | .264 | .446 |
3-2 | .188 | .453 | .531 | .984 |
MLB平均との差
平均との差 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
---|---|---|---|---|
初球 | +.032 | +.050 | +.186 | +.235 |
1-0 | -.100 | -.105 | -.250 | -.354 |
2-0 | +.219 | +.216 | +.431 | +.645 |
3-0 | -.426 | -.044 | -.890 | -.934 |
0-1 | +.048 | +.069 | -.006 | +.063 |
1-1 | -.004 | -.016 | +.058 | +.044 |
2-1 | +.058 | +.087 | +.372 | +.459 |
3-1 | +.099 | +.028 | +.001 | +.029 |
0-2 | +.135 | +.126 | +.246 | +.372 |
1-2 | -.004 | +.005 | +.063 | +.068 |
2-2 | +.014 | +.005 | -.005 | +.001 |
3-2 | -.003 | .000 | +.203 | +.204 |
コース別詳細
対右投手

対左投手

球種別詳細
球種 | 打席数 | 打率 | 長打率 | wOBA | 空振り% | K% |
---|---|---|---|---|---|---|
4-Seam Fastball | 227 | .251 | .498 | .353 | 22.8 | 20.7 |
Changeup | 93 | .286 | .473 | .333 | 20.9 | 18.3 |
Sinker | 82 | .328 | .552 | .441 | 13.6 | 12.2 |
Slider | 89 | .316 | .544 | .424 | 31.4 | 19.1 |
Curveball | 73 | .279 | .529 | .366 | 34.1 | 19.2 |
Cutter | 59 | .216 | .471 | .343 | 17.5 | 10.2 |
Sweeper | 30 | .200 | .400 | .310 | 16.7 | 23.3 |
Split-Finger | 32 | .300 | .467 | .353 | 35.2 | 28.1 |
Knuckleball | 1 | .000 | .000 | .000 | 0 | 0 |
Slurve | 1 | .000 | .000 | .000 | 0 | 0 |
- データ参照先
-
「カウント別詳細」のデータは baseballreference.com を参照しています。
「コース別詳細」および「球種別詳細」のデータは baseballsarvant.mlb.com を参照しています。