このブログではTV中継のバッテリーの攻防をより面白いものに感じられるような情報を提供します。
2024年のAll MLB 2ndチームの選手を取り上げています。選出メンバーについては、MLB.comのサイトを参照してください。
今回は、2ndチームの二塁手ホゼ・アルトゥーベ選手。「小さな巨人」と呼ばれるAstrosの象徴です。
身長168cm、体重76kgという非常に小柄な選手にもかかわらず、(記事執筆時点で)メジャー15年目(=Astrosでの15年目)に突入。2025年から新たに5年契約もスタートし、Astrosのフランチャイズプレーヤーとしてキャリアを終える可能性も高まってきました。
MLB選手の平均サイズは6フィート2インチ(約188cm)、209 pounds(約95kg)と言われており(参考記事はこちら)、アルトゥーベ選手は身長で約20cm、体重も約20kgの差があります。
もちろん必ずしも身体が大きければよいというわけではないですが、これだけサイズが異なると筋力においては明確にハンディキャップが発生します。そういう状況下で十何年も一線級の成績を残し、しかも、いわゆる小兵といったタイプとは異なる形の活躍を続けてきた、非常に特異な存在と言えるでしょう。
概要
MVP1回、首位打者3回、盗塁王2回、最多安打4回と、これまでのキャリアで数々のタイトルを獲得しています。
20代前半は持ち前の走力も生かして単打を中心に安打数を積み重ねる高打率タイプの打者だったのですが、20代後半に入ってくると長打力、四球率も伸ばし、OPSが.900を超えることも出てきました。30本以上の本塁打を打ったシーズンもあります。
そして、直近の2024年シーズンも、それ以前の数年と比較するとやや落ちてきたものの、.295/20本塁打/22盗塁の成績を残し、シルバースラッガー賞も獲得しています。
一方、守備面では、長年、二塁手としてセンターラインを守り続けていましたが、守備指標が悪化してきたこともあってか、2025年からレフトへコンバートされています。
このコンバートが攻撃面でプラスをもたらし3000本安打を達成してほしいと筆者は願っているのですが…
打率 | 本塁打 | 打点 | 出塁率 | OPS | +OPS | BB% | K% | 盗塁 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
.295 | 20 | 65 | .350 | .790 | 124 | 6.9% | 17.4% | 22 |
カウント別
MLB打者の平均的傾向 2ストライクでの打撃成績は打率・出塁率・長打率すべてで急降下
- 各ストライクでの打率/出塁率/長打率
- 0ストライク .336/.390/.577
- 1ストライク .326/.391/.538
- 2ストライク .168/.244/.264
ホゼ・アルトゥーベ選手の傾向をまとめると下記の通りです。
- ハーパー選手同様、初球から積極的に勝負を仕掛けてくる(2024年の初球スイング率がMLB全体で12位(※対象は200打席以上の打者))。
- ボール球にも手を出してくる一方、空振り率や三振率は低くコンタクト能力が高い。
- その裏返しとして四球率はキャリア全体通して低め(ただ、20代後半から2023年あたりまでは平均以上まで四球率を上げていた)。
- キャリア通じて左投手の方が得意(記事執筆時点では、キャリア全体で対右投手の打率/OPSが.297/.801であるのに対し、対左投手は.327/.898)。
- スプリットやカーブといった球種を苦手にしている。
2024年はとにかく左投手を打ち込んでおり、対左投手打率は驚異の.370。ゾーン内で最も低い外角低めでも.250は打っています。
アルトゥーベ選手がバッティング中に行うインステップと右足を引く動作によって、左投手の真ん中から内よりに投げられる球に対しては、身体の動きとボールの軌道が合うように見えます(結果、好成績につながっている)。
また、スプリットを投げる左投手はほとんどいないので、その点もアルトゥーベ選手が左投手を得意にしている理由と言えます。
よって、左投手がこのアルトゥーベ選手を攻略するのは非常に難易度が高いのですが、2024年の成績からは考えると、外角高めのフォーシームとカッター、カーブを使っていくのが有効です。ボール球にも手を出してはくれるので、ややストライクゾーンから外れたところを使えればベストです。
右投手の場合は、攻略の選択肢を増やすことができます。
アルトゥーベ選手はずっとスプリットを苦手にしているので、レパートリーにスプリットがある投手なら相当有利に勝負を進められます。また、その他の変化球も得意というわけではないので、それぞれの勝負球を活かしていってもよいでしょう。
ただし、コースは間違えないようにしたい。どの変化球も右投手の外角ベルト付近から高めについては打撃成績がよいので、内角か外角低めに投げるというのは鉄則です。
スウィング
MLB.comが提供するスタットキャストに2024年5月に追加された「バット・トラッキング」から抜粋しています(用語の説明は別途)。
順位が高いほうがよいものももちろんありますが、各選手のスウィングの個性が現れます。
スウィングの個性が現れた例
大振りパワーヒッターの典型であるスタントン選手とこれまた安打製造機の典型であるアライズ選手の比較がこちら。
スウィングにパワーを持たせたいスタントン選手は平均バット・スピード、ファスト・スウィング率(75マイル/h以上のスウィング)でMLBトップの数字であるが、コンパクトなスウィングでバットの芯(スウィートスポット)に当てることに長けたアライズ選手はなんと平均バット・スピード、ファスト・スウィング率でMLB最下位。
一方、どれだけ芯に近い場所で打つことができたかを示すスクエア・アップ率はアライズ選手がMLBトップで、スタントン選手はMLB平均以下。
ちなみに、ボールに当たるまでのスウィングの距離を測る「スウィング軌道距離」でも、スタントン選手がMLB最長、アライズ選手がMLB最短と両極端な個性が指標から読み取れます。
平均バットスピード | ファストスウィング率 | スウィング軌道距離 | スクエアアップ率 | |
---|---|---|---|---|
スタントン | 81.3m/h | 98.7% | 8.6ft | 20.8% |
アライズ | 63.2m/h | 0.3% | 6.0ft | 43.9% |
ホゼ・アルトゥーベ選手のスウィング指標ですが、下記の通り、傑出した指標は何もありません。これは身体のサイズを考えると仕方がないのかもしれません。
しかしながら、ここまで書いてきたように、結果は残しています。
年によって差があるものの、スウィート・スポット率は高い方で、2024年は35.4%とMLB平均を上回っていました。これに高いスクエア・アップ率を合わせると、適切な角度に質の高い打球を飛ばす技術を身につけていることが分かります。
そして、長打力に大きく貢献しているのが、プルヒッティング(引っ張り方向に打球を飛ばすこと)です。
アルトゥーベ選手は引っ張り方向にフライを飛ばしている率が26.9%とMLBでも相当上位です。この数値を出すために、インステップ打法を取り入れているとも考えられます。
全方向に打球を飛ばせればそれに越したことはないです。
ですが、理想というのはある種、持っている者の理論でもあります。
持たざる者には理想を追いきれない場面が出てくるものです。そこでどう生き残るかを問われます。
体格に恵まれない選手が、この長打力重視の現在メジャーリーグでなんとか長打を打つには、プルヒッティングしかなかったわけです。
ホームランになるゾーンは絞るけど、フェンスを越えるように角度をつける技術を磨き上げる。ベッツ選手だって、ラミレス選手だってそう。思考と努力の研鑽と蓄積は、持たざる者が結果を出しているときにこそ垣間見えると筆者は感じます。
2024 | 個人 | MLB順位 | MLB平均 |
---|---|---|---|
平均バットスピード | 69.4m/h | 180 | 71.5m/h |
ファスト・スウィング率 | 13.0% | 142 | 22.5% |
スウィング軌道距離 | 7.8ft | 21 | 7.3ft |
スクエア・アップ率 | 26.1% | 80 | 25.0% |
ブラスト・スウィング率 | 7.1% | 192 | 10.3% |
バレル率 | 6.5% | 96 | - |
詳細データ
上に書いた内容のエビデンスデータを記載しています。
このデータを使って、「自分だったらどの球種、どのコースで取るか」を考えていただくのも野球の1つの楽しみ方だと思います(もちろん走者やアウトの数や投手の持ち球によって変わりますけどね)。
カウント別詳細
個人
カウント別 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
---|---|---|---|---|
初球 | .356 | .367 | .517 | .884 |
1-0 | .455 | .455 | .727 | 1.182 |
2-0 | .200 | .200 | .300 | .500 |
3-0 | .500 | .846 | 1.250 | 2.096 |
0-1 | .365 | .385 | .556 | .940 |
1-1 | .315 | .327 | .537 | .864 |
2-1 | .320 | .320 | .360 | .680 |
3-1 | .286 | .667 | .571 | 1.238 |
0-2 | .269 | .278 | .346 | .625 |
1-2 | .222 | .222 | .300 | .522 |
2-2 | .195 | .205 | .268 | .473 |
3-2 | .263 | .468 | .456 | .924 |
MLB平均との差
平均との差 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
---|---|---|---|---|
初球 | +.023 | +.023 | -.043 | -.021 |
1-0 | +.117 | +.112 | +.144 | +.257 |
2-0 | -.144 | -.147 | -.332 | -.480 |
3-0 | +.074 | -.098 | +.360 | +.262 |
0-1 | +.040 | +.051 | +.043 | +.093 |
1-1 | -.006 | .000 | +.012 | +.013 |
2-1 | -.011 | -.014 | -.212 | -.226 |
3-1 | -.053 | -.032 | -.053 | -.085 |
0-2 | +.121 | +.121 | +.125 | +.247 |
1-2 | +.058 | +.051 | +.052 | +.103 |
2-2 | +.025 | +.028 | -.001 | +.028 |
3-2 | +.072 | +.015 | +.128 | +.144 |
コース別詳細
対右投手

対左投手

球種別詳細
球種 | 打席数 | 打率 | 長打率 | wOBA | 空振り% | K% |
---|---|---|---|---|---|---|
4-Seam Fastball | 186 | .302 | .517 | .386 | 13.6 | 15.6 |
Sinker | 122 | .304 | .393 | .338 | 13.9 | 8.2 |
Slider | 125 | .277 | .438 | .362 | 29.7 | 20 |
Changeup | 70 | .313 | .448 | .338 | 27.2 | 20 |
Curveball | 49 | .233 | .256 | .277 | 30.4 | 26.5 |
Cutter | 49 | .304 | .413 | .373 | 23.2 | 16.3 |
Sweeper | 52 | .320 | .520 | .373 | 28.3 | 23.1 |
Split-Finger | 23 | .182 | .227 | .241 | 30.5 | 34.8 |
Slurve | 4 | .750 | .750 | .675 | 0 | 0 |
- データ参照先
-
「カウント別詳細」のデータは baseballreference.com を参照しています。
「コース別詳細」および「球種別詳細」のデータは baseballsarvant.mlb.com を参照しています。