2024年のAll MLB 1stチームの選手を取り上げています。選出メンバーについては、MLB.comのサイトを参照してください。
1stチームの二塁手は、ケテル・マルテ選手。
Diamondbacksとマルテ選手は元々2027年までの5年契約をしていましたが、2025年の開幕直後にさらに4年6400万ドル文が追加され、7年間の総額が1億1650万ドル(と思われる)の契約延長に合意したという報道がありました。
ほとんどのMLB関連のメディアで、2025年二塁手ランキングで1位としているのが、このマルテ選手です。1位としなかったメディアも少数ありますが、それはベッツ選手を二塁手として扱っているケースのみですね。
デビュー時は俊足のユーティリティープレーヤーとして出てきましたが、徐々に打撃成績を上げ、ここ数年は二塁手として固定され、いまや球界有数の強打の二塁手としての地位を確保しました。
このブログではTV中継のバッテリーの攻防をより面白いものに感じられるような情報を提供します。
概要
2024年は本塁打・打点でキャリアハイの成績を収め、30歳になって2019年以来となるbWAR 6.8という高数値を叩き出し、攻守にわたって大活躍の年となりました。
2023年もチームを代表するレベルの成績を残していましたが(2023年のbWARは4.9)、円熟したと言えばよいのか、打撃・守備両面で技術に磨きがかかっていました。
打撃に関しては、「カウント別」や「スウィング」で詳細を扱います。
守備に関しては、OAAでキャリアハイの数値を出しており、2023年にすでに出ていたOAAの上昇傾向もふまえると、二塁手に固定されたことによる結果なのではないかと見ています。
二塁手に固定されたのは2022年(2021年はむしろセンターの方が多かった)と比較的最近なので、二塁手としての慣れは数値に影響があったと思われます。
打率 | 本塁打 | 打点 | 出塁率 | OPS | +OPS | BB% | K% | 盗塁 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
.292 | 36 | 95 | .372 | .932 | 155 | 11.1% | 18.2% | 7 |
カウント別
MLB打者の平均的傾向 2ストライクでの打撃成績は打率・出塁率・長打率すべてで急降下
- 各ストライクでの打率/出塁率/長打率
- 0ストライク .336/.390/.577
- 1ストライク .326/.391/.538
- 2ストライク .168/.244/.264
ケテル・マルテ選手の傾向をまとめると下記の通りです。
- 打席のスウィングアプローチはどちらかといえば慎重。
- キャリア通じて、右打席の方が打率、長打ともに優秀。
- スプリットなど落ちる系のボールに手を焼いている。
- 空振り率、チェイスレート、スクエア・アップは、突出とまではいかないもののどれも高水準。
左打席(対右投手)と右打席(対左投手)で成績にだいぶ差があります。
したがって右投手(=マルテ選手が左打席に入る)は比較的くみしやすく、スプリットを持ち球にしていれば、スプリットをベースとした配球で高確率で打ち取ることができると考えます(左打席のスプリットに対する打率は.038)。スプリットがない場合、外角低めのチェンジアップで代用可能です。
しかし、左投手(=マルテ選手が右打席に入る)にとっては、厄介なことこの上ない打者です。
スプリットは右打席でも打てていないのですが、そもそもスプリットを使いこなす左投手がほとんどいないので、スプリットをベースにする戦略は一般的になりえません。

そんな例外的な左投手として今永選手がいるにゃん。だけど、今永選手のスプリットも日本だとチェンジアップ扱いだったにゃ。
外角低めのチェンジアップ、内角低めのスライダー・スイーパーという左投手が右打者に対する際の定番の決め球はある程度有効ではあります。
あとは、いかにマルテ選手の虚を突けるかどうかですね。データからバックドアのボール(外角ボールゾーンからストライクゾーンに入ってくる)や意外ですが真ん中のフォーシームなど、(打者の)予想外のボールとなりうる球種・コースに関してはうまく手を出せていないことがわかります。
スウィング
MLB.comが提供するスタットキャストに2024年5月に追加された「バット・トラッキング」から抜粋しています(用語の説明は別途)。
順位が高いほうがよいものももちろんありますが、各選手のスウィングの個性が現れます。
スウィングの個性が現れた例
大振りパワーヒッターの典型であるスタントン選手とこれまた安打製造機の典型であるアライズ選手の比較がこちら。
スウィングにパワーを持たせたいスタントン選手は平均バット・スピード、ファスト・スウィング率(75マイル/h以上のスウィング)でMLBトップの数字であるが、コンパクトなスウィングでバットの芯(スウィートスポット)に当てることに長けたアライズ選手はなんと平均バット・スピード、ファスト・スウィング率でMLB最下位。
一方、どれだけ芯に近い場所で打つことができたかを示すスクエア・アップ率はアライズ選手がMLBトップで、スタントン選手はMLB平均以下。
ちなみに、ボールに当たるまでのスウィングの距離を測る「スウィング軌道距離」でも、スタントン選手がMLB最長、アライズ選手がMLB最短と両極端な個性が指標から読み取れます。
平均バットスピード | ファストスウィング率 | スウィング軌道距離 | スクエアアップ率 | |
---|---|---|---|---|
スタントン | 81.3m/h | 98.7% | 8.6ft | 20.8% |
アライズ | 63.2m/h | 0.3% | 6.0ft | 43.9% |
各項目を見ると、バットスピード、ファスト・スウィング率、スクエア・アップがどれも平均以上の高水準で、結果、ブラスト・スウィングがMLB全体でかなり上位となっています。
ただ、上記でも記載した通り、左打席と右打席ではかなり打者としてのタイプが異なります。
左打席はどちらかというとコンタクトヒッターの傾向があるのですが、右打席は完全にパワーヒッター(しかも芯に当てるのがうまい)です。
左右打席比較(2024)
項目 | 左打席 | 右打席 |
平均バットスピード | 71.5m/h | 77.2m/h |
ファスト・スウィング率 | 21.0% | 72.7% |
スウィング軌道距離 | 7.4ft | 8.0ft |
スクエア・アップ率 | 31.8% | 28.3% |
スイッチヒッターには左右同じ傾向になるタイプと別打者と言えるくらい差があるタイプがいますが、マルテ選手は明らかに後者ですね。
2024 | 個人 | MLB順位 | MLB平均 |
---|---|---|---|
平均バットスピード | 73.7m/h | 45 | 71.5m/h |
ファスト・スウィング率 | 40.6% | 42 | 22.5% |
スウィング軌道距離 | 7.6ft | 41 | 7.3ft |
スクエア・アップ率 | 30.5% | 26 | 25.0% |
ブラスト・スウィング率 | 16.2% | 13 | 10.3% |
バレル率 | 12.3% | 29 | - |
詳細データ
上に書いた内容のエビデンスデータを記載しています。
このデータを使って、「自分だったらどの球種、どのコースで取るか」を考えていただくのも野球の1つの楽しみ方だと思います(もちろん走者の数や投手の持ち球によって変わりますけどね)。
カウント別詳細
個人
カウント別 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
---|---|---|---|---|
初球 | .379 | .382 | .758 | 1.140 |
1-0 | .327 | .320 | .694 | 1.014 |
2-0 | .385 | .385 | .731 | 1.115 |
3-0 | 1.000 | 1.000 | 1.000 | 2.000 |
0-1 | .418 | .414 | .691 | 1.105 |
1-1 | .306 | .300 | .653 | .953 |
2-1 | .318 | .280 | .591 | .871 |
3-1 | .222 | .741 | .556 | 1.296 |
0-2 | .143 | .143 | .262 | .405 |
1-2 | .200 | .197 | .387 | .584 |
2-2 | .258 | .292 | .516 | .808 |
3-2 | .213 | .538 | .362 | .899 |
MLB平均との差
平均との差 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
---|---|---|---|---|
初球 | +.046 | +.038 | +.198 | +.235 |
1-0 | -.011 | -.023 | +.111 | +.089 |
2-0 | +.041 | +.038 | +.099 | +.135 |
3-0 | +.574 | +.056 | +.110 | +.166 |
0-1 | +.093 | +.080 | +.178 | +.258 |
1-1 | -.015 | -.027 | +.128 | +.102 |
2-1 | -.013 | -.054 | +.019 | -.035 |
3-1 | -.117 | +.042 | -.068 | -.027 |
0-2 | -.005 | -.014 | +.041 | +.027 |
1-2 | +.036 | +.026 | +.139 | +.165 |
2-2 | +.088 | +.115 | +.247 | +.363 |
3-2 | +.022 | +.085 | +.034 | +.119 |
コース別詳細
対右投手


対左投手


球種別詳細
球種 | 打席数 | 打率 | 長打率 | wOBA | 空振り% | K% |
---|---|---|---|---|---|---|
4-Seam Fastball | 186 | .346 | .654 | .457 | 12.8 | 14.5 |
Changeup | 102 | .247 | .464 | .330 | 20.2 | 13.7 |
Sinker | 82 | .343 | .571 | .433 | 15.5 | 13.4 |
Slider | 67 | .288 | .475 | .384 | 40 | 40.3 |
Cutter | 57 | .300 | .660 | .401 | 21.4 | 17.5 |
Curveball | 29 | .360 | 1.040 | .597 | 25 | 13.8 |
Split-Finger | 30 | .036 | .036 | .077 | 36.1 | 23.3 |
Sweeper | 19 | .176 | .412 | .292 | 32.4 | 31.6 |
Knuckleball | 2 | .000 | .000 | .350 | 0 | 0 |
Slurve | 2 | .000 | .000 | .350 | 0 | 0 |
- データ参照先
-
「カウント別詳細」のデータは baseballreference.com を参照しています。
「コース別詳細」および「球種別詳細」のデータは baseballsarvant.mlb.com を参照しています。