2024年のAll MLB 1stチームの選手を取り上げています。選出メンバーについては、MLB.comのサイトを参照してください。
1stチームのファーストは、ブラディミール・ゲレーロJr.選手。
2025年開幕直後に14年5億ドルでBlue Jaysと契約合意したという報道がありました。これでほぼトロントのフランチャイズプレーヤーとして現役を全うすることになりそうですね。
すごい金額とも感じますが、Metsのソト選手が15年7億6500万ドルで契約していることを考えると、それぐらいの金額にはなるのも全く不思議ではないです。
お父さんのブラディミール・ゲレーロさんは2018年に殿堂入りしています。バットは素手で持つ、悪球打ち、強肩強打で俊足と野性味あふれるパワフルな名選手でした。
ブラディミール・ゲレーロJr.選手は、そんなお父さんの面影を感じる部分もあれば、全く似ていない部分もありますが、そのあたりもふまえつつ、詳細を見ていきましょう。

ちなみに十数年前、筆者の家の鍵のキーホルダーはこのゲレーロさんのものだったにゃん(何年もつけていて愛着があった)。
このブログではTV中継のバッテリーの攻防をより面白いものに感じられるような情報を提供します。
概要
2024年の春先はスロースタートでしたが、5月以降は素晴らしい打棒を披露し続け、MVP投票では6位にランクイン。守備・走塁指標が低かったにもかかわらず打撃でしっかりと存在感を出しました。
筆者世代だとゲレーロシニアさんにも思い入れがあるので、5ツールを軸に親子の能力比較をしてみましょう。
バッティンググラブの有無はさておき、「ミート力」、「長打力」については非常に面影を感じます。お父さんは悪球打ちと言われていましたが、悪球を打てるということはコンタクト能力が非常に高いということです。そして、ゲレーロJr選手もパワーヒッターにもかかわらず、空振り率、三振率が低い打者です。
一方、「走力」は親子で全く異なる形に。40盗塁を決めたシーズンもあるお父さんに対し、ゲレーロJr.選手は走塁指標は例年低い水準です。
「守備力」については、ポジションが異なるので単純な比較は難しいですが、どちらもあまり芳しい成績を残せていません。
「肩(送球力)」で名を馳せたお父さん(「バズーカ」の異名を持つ)に対し、ゲレーロJr選手も平均以上の指標は出せているので、このあたりの身体能力は父親譲りであると言えます。
打率 | 本塁打 | 打点 | 出塁率 | OPS | +OPS | BB% | K% | 盗塁 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
.323 | 30 | 103 | .396 | .940 | 165 | 10.3% | 13.8% | 2 |
カウント別
MLB打者の平均的傾向 2ストライクでの打撃成績は打率・出塁率・長打率すべてで急降下
- 各ストライクでの打率/出塁率/長打率
- 0ストライク .336/.390/.577
- 1ストライク .326/.391/.538
- 2ストライク .168/.244/.264
ブラディミール・ゲレーロJr.選手の傾向をまとめると下記の通りです。
- 初球のスウィングについて比較的慎重なアプローチ。
- 苦手な球種・コースはないが、本当にあえて言えば、左投手の低めのシンカー。
- 2ストライクでも打率/OPSが.259/.735と全く油断できない数値を残す。
- 引っ張り方向への飛球が少ない。
- シーズン全体の成績傾向は、チェイス・レート(ボール球スウィングの割合)の影響が強そう。
怪物級の身体能力を持つ父親、金髪ドレッド、「Yankeesには絶対行かない」発言といったような華々しい背景・言動に反して(?)、自身の打席でのアプローチや打撃技術の改善については熱心に取り組んでいることが、シーズンごとの推移から窺えます。
結果、苦手な球種やコースがなくなり穴のないハイレベルな打者に成長しました。特にボール球を追いかけない状態になった時にはもう手が付けられません。
そんなゲレーロJr選手への対策ですが、三振や空振りをねらわず、あまり足が速くない、スイートスポットでとらえる確率が他の強打者よりは低い点から、ゴロを打たせる配球を考えていくしかないでしょう。
具体的には左投手であればシンカー、右投手であればスプリットを低めに集めることを投球の中心に据え、高めのボールになる速球であわよくば空振りをねらっていくという基本戦略を遂行していくことになります。
スウィング
MLB.comが提供するスタットキャストに2024年5月に追加された「バット・トラッキング」から抜粋しています(用語の説明は別途)。
順位が高いほうがよいものももちろんありますが、各選手のスウィングの個性が現れます。
スウィングの個性が現れた例
大振りパワーヒッターの典型であるスタントン選手とこれまた安打製造機の典型であるアライズ選手の比較がこちら。
スウィングにパワーを持たせたいスタントン選手は平均バット・スピード、ファスト・スウィング率(75マイル/h以上のスウィング)でMLBトップの数字であるが、コンパクトなスウィングでバットの芯(スウィートスポット)に当てることに長けたアライズ選手はなんと平均バット・スピード、ファスト・スウィング率でMLB最下位。
一方、どれだけ芯に近い場所で打つことができたかを示すスクエア・アップ率はアライズ選手がMLBトップで、スタントン選手はMLB平均以下。
ちなみに、ボールに当たるまでのスウィングの距離を測る「スウィング軌道距離」でも、スタントン選手がMLB最長、アライズ選手がMLB最短と両極端な個性が指標から読み取れます。
平均バットスピード | ファストスウィング率 | スウィング軌道距離 | スクエアアップ率 | |
---|---|---|---|---|
スタントン | 81.3m/h | 98.7% | 8.6ft | 20.8% |
アライズ | 63.2m/h | 0.3% | 6.0ft | 43.9% |
ブラディミール・ゲレーロJr.選手のスウィング指標は、ソト選手に非常に近く、こちらもMLBでもトップクラスの数値と言えます。スウィングのハードさとコンタクトの確率の高さを兼備したスウィングです。



ソト選手と、年齢、打撃技術、選手としてのタイプ(守備走塁がやや苦手)がこれだけ近いけど、年俸総額は1億ドル以上開いたにゃ。
お父さんの時代にはこのようなスウィングデータはなかったですが、比較すると、DNAを感じるような類似値が出ていたかもしれません。
ただ、他のMLBの強打者よりもスイートスポット%だけは低めの数値になっていて(MLB平均程度の水準)、その影響で、スウィングスピードとスクエア・アップ率のハイレベルなコンビネーションと比較すると、バレル率が少し低めになっています。
とはいえ、ここ数年、着実に課題を解消してきた選手ではあるので、ひょっとすると2~3年後にはこの数値も改善してきて、MLB最強打者として全盛期を迎える可能性もなくはありませんね。
2024 | 個人 | MLB順位 | MLB平均 |
---|---|---|---|
平均バットスピード | 75.9m/h | 12 | 71.5m/h |
ファスト・スウィング率 | 57.5% | 13 | 22.5% |
スウィング軌道距離 | 7.7ft | 29 | 7.3ft |
スクエア・アップ率 | 27.7% | 53 | 25.0% |
ブラスト・スウィング率 | 19.4% | 2 | 10.3% |
バレル率 | 13.7% | 14 | - |
詳細データ
上に書いた内容のエビデンスデータを記載しています。
このデータを使って、「自分だったらどの球種、どのコースで取るか」を考えていただくのも野球の1つの楽しみ方だと思います(もちろん走者の数や投手の持ち球によって変わりますけどね)。
カウント別詳細
個人
カウント別 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
---|---|---|---|---|
初球 | .355 | .367 | .553 | .920 |
1-0 | .431 | .431 | 1.039 | 1.471 |
2-0 | .429 | .429 | .714 | 1.143 |
3-0 | .000 | .882 | .000 | .882 |
0-1 | .358 | .362 | .508 | .870 |
1-1 | .403 | .397 | .597 | .994 |
2-1 | .419 | .438 | 1.065 | 1.502 |
3-1 | .286 | .833 | .429 | 1.262 |
0-2 | .300 | .300 | .383 | .683 |
1-2 | .202 | .202 | .326 | .528 |
2-2 | .228 | .234 | .402 | .636 |
3-2 | .350 | .585 | .517 | 1.102 |
MLB平均との差
平均との差 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
---|---|---|---|---|
初球 | +.022 | +.023 | -.007 | +.015 |
1-0 | +.093 | +.088 | +.456 | +.546 |
2-0 | +.085 | +.082 | +.082 | +.163 |
3-0 | -- | -.062 | -- | -- |
0-1 | +.033 | +.028 | -.005 | +.023 |
1-1 | +.082 | +.070 | +.072 | +.143 |
2-1 | +.088 | +.104 | +.493 | +.596 |
3-1 | -.053 | +.134 | -.195 | -.061 |
0-2 | +.152 | +.143 | +.162 | +.305 |
1-2 | +.038 | +.031 | +.078 | +.109 |
2-2 | +.058 | +.057 | +.133 | +.191 |
3-2 | +.159 | +.132 | +.189 | +.322 |
コース別詳細
対右投手


対左投手


球種別詳細
球種 | 打席数 | 打率 | 長打率 | wOBA | 空振り% | K% |
---|---|---|---|---|---|---|
4-Seam Fastball | 173 | .338 | .530 | .413 | 19.6 | 15 |
Sinker | 162 | .290 | .393 | .341 | 8.7 | 8.6 |
Slider | 97 | .322 | .690 | .444 | 31.5 | 18.6 |
Changeup | 80 | .288 | .479 | .383 | 27 | 18.8 |
Cutter | 56 | .440 | .860 | .564 | 32.6 | 19.6 |
Sweeper | 61 | .298 | .579 | .392 | 24.1 | 11.5 |
Curveball | 32 | .419 | .581 | .422 | 16.3 | 6.3 |
Split-Finger | 18 | .188 | .375 | .289 | 34.6 | 11.1 |
Slurve | 4 | .500 | .750 | .538 | 12.5 | 0 |
Knuckleball | -- | -- | -- | 0 | -- |
- データ参照先
-
「カウント別詳細」のデータは baseballreference.com を参照しています。
「コース別詳細」および「球種別詳細」のデータは baseballsarvant.mlb.com を参照しています。