このブログではTV中継のバッテリーの攻防をより面白いものに感じられるような情報を提供します。
2024年のAll MLB 2ndチームの選手を取り上げています。選出メンバーについては、MLB.comのサイトを参照してください。
今回は、2ndチームの一塁手で、MLB界のthe “Chosen One(選ばれし者)” ブライス・ハーパー選手。
「高2の時点で570フィート(約174メートル)のホームランを打ち、96マイル(約155キロ)の速球を投げる」
「レブロン・ジェームス以来のエキサイティングな天才」
と喧伝されるなど、早くからその才能を燦然と輝かせ、アメリカ最大手のスポーツ雑誌『スポーツ・イラストレイテッド』の表紙を16歳で飾り、スコット・ボラス氏と手を組んで17歳でのドラフト全体1位指名でNationalsに入団するなど派手なエピソードにも事欠かない選手です。
入団後もワイルドな風貌、激しいプレースタイル、大胆不敵な言動、大舞台での華々しい活躍など、スーパースターとしてここまで歩んできました。
最近は、そのイメージとは少しギャップを感じるものの、SNSで料理のレシピを投稿していたりすることもあるらしい…
概要
若い頃は気質の激しさもあってか好不調の波も大きいイメージでしたが、近年は成熟し、所属するチームでもリーダーシップを発揮しているように見えます。
キャリア全体の成績も素晴らしく、MVPを2度獲得し、レギュラーシーズンの通算OPSは2025年開幕時点で.908とかなりの高水準です。また、四球も毎年多いので、OPSが大崩れしないという傾向はあります。
また、ポストシーズンでも滅法強く、こちらは通算のOPSがなんと.1016とスーパースターに違わぬ数字です。

日本で言うと清原和博さんみたいなイメージにゃのか…
守備に関しては「とにかく強肩で、守備範囲はそれほど広くない」というのが外野を守っていた時の評価でしたが、2024年から一塁手に専念したところ、守備範囲の指標もかなり上向いていました。
打率 | 本塁打 | 打点 | 出塁率 | OPS | +OPS | BB% | K% | 盗塁 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
.285 | 30 | 87 | .373 | .898 | 147 | 12.0% | 21.9% | 7 |
カウント別
MLB打者の平均的傾向 2ストライクでの打撃成績は打率・出塁率・長打率すべてで急降下
- 各ストライクでの打率/出塁率/長打率
- 0ストライク .336/.390/.577
- 1ストライク .326/.391/.538
- 2ストライク .168/.244/.264
ブライス・ハーパー選手の傾向をまとめると下記の通りです。
- 初球からかなり積極的に勝負を仕掛けてくるタイプ(2024年の初球スイング率がMLB全体で10位(※対象は200打席以上の打者))。
- 空振り率も高い、チェイスレートも悪いが、ゾーン内に来るボールが非常に少ないため、四球が多い。
- 対右左でほぼ差はなく、2024年はむしろ左投手の方が打っている。
- 20代はフォーシームに滅法強く、ブレーキング系・緩急系に弱いという傾向だったが、30歳前からその開きが小さくなってきている。とはいえ、ブレーキング系は以前苦手傾向あり。
- カウント別で特殊な傾向はないが、打者不利なカウントでは少し振るわない傾向がある。
空振りも多い、悪球も振ってくる、芯に当てるのはそこまで得意ではない傾向があるものの、ゾーン別、球種別の傾向を見るとそれほど大きな穴がない打者です。
いや、穴をなくす努力を続けてきたと言う方が正確ですね。年々、緩急に対応できるようになり、結果、2021年に打棒が爆発し2度目のMVPにつながったように見えます。
とはいえ、今もカーブや左投手のスライダーの対応には苦戦しているのは数値に現れているので、打ち取っていくにはこれらの球種をメインにする必要があります。
また、フォーシームに関しても、(他と比較すれば)自分の身体に近いコースは打てていないので、内角高めフォーシームとブレーキング系の球種の組み合わることが中心戦略になります。特に、2024年は左投手の内角のフォーシームは相当打てていませんでした(2025年は打てているので、オフに修正している様子が窺えます)。
スウィング
MLB.comが提供するスタットキャストに2024年5月に追加された「バット・トラッキング」から抜粋しています(用語の説明は別途)。
順位が高いほうがよいものももちろんありますが、各選手のスウィングの個性が現れます。
スウィングの個性が現れた例
大振りパワーヒッターの典型であるスタントン選手とこれまた安打製造機の典型であるアライズ選手の比較がこちら。
スウィングにパワーを持たせたいスタントン選手は平均バット・スピード、ファスト・スウィング率(75マイル/h以上のスウィング)でMLBトップの数字であるが、コンパクトなスウィングでバットの芯(スウィートスポット)に当てることに長けたアライズ選手はなんと平均バット・スピード、ファスト・スウィング率でMLB最下位。
一方、どれだけ芯に近い場所で打つことができたかを示すスクエア・アップ率はアライズ選手がMLBトップで、スタントン選手はMLB平均以下。
ちなみに、ボールに当たるまでのスウィングの距離を測る「スウィング軌道距離」でも、スタントン選手がMLB最長、アライズ選手がMLB最短と両極端な個性が指標から読み取れます。
平均バットスピード | ファストスウィング率 | スウィング軌道距離 | スクエアアップ率 | |
---|---|---|---|---|
スタントン | 81.3m/h | 98.7% | 8.6ft | 20.8% |
アライズ | 63.2m/h | 0.3% | 6.0ft | 43.9% |
ブライス・ハーパー選手のスウィング指標ですが、スウィング軌道距離を除けば、パワーヒッター傾向が強く出ています。そして、スウィート・スポット率も2024年は36.1%とMLBで上位の数値を出しています。
スクエア・アップ率を除けば、どれも高い水準でまとめているというのがブライス・ハーパー選手のスウィング特徴と言えます。
見た目も言動も非常に派手で、感情のアップダウンも激しいという人物の印象とは裏腹に(?)、野球の技術に関しては細かく改善を重ねているような指標が出てきているのが興味深いところです。
2024 | 個人 | MLB順位 | MLB平均 |
---|---|---|---|
平均バットスピード | 74.0m/h | 40 | 71.5m/h |
ファスト・スウィング率 | 41.0% | 41 | 22.5% |
スウィング軌道距離 | 7.3ft | 118 | 7.3ft |
スクエア・アップ率 | 21.0% | 185 | 25.0% |
ブラスト・スウィング率 | 13.1% | 42 | 10.3% |
バレル率 | 10.6% | 47 | - |
詳細データ
上に書いた内容のエビデンスデータを記載しています。
このデータを使って、「自分だったらどの球種、どのコースで取るか」を考えていただくのも野球の1つの楽しみ方だと思います(もちろん走者やアウトの数や投手の持ち球によって変わりますけどね)。
カウント別詳細
個人
カウント別 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
---|---|---|---|---|
初球 | .341 | .341 | .716 | 1.057 |
1-0 | .429 | .417 | .686 | 1.102 |
2-0 | .455 | .455 | .455 | .909 |
3-0 | .000 | .833 | .000 | .833 |
0-1 | .273 | .273 | .386 | .659 |
1-1 | .481 | .491 | .981 | 1.471 |
2-1 | .273 | .273 | .318 | .591 |
3-1 | .500 | .848 | .500 | 1.348 |
0-2 | .145 | .145 | .273 | .418 |
1-2 | .153 | .162 | .264 | .426 |
2-2 | .260 | .260 | .558 | .818 |
3-2 | .250 | .469 | .500 | .969 |
MLB平均との差
平均との差 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
---|---|---|---|---|
初球 | +.008 | -.003 | +.156 | +.152 |
1-0 | +.091 | +.074 | +.103 | +.177 |
2-0 | +.111 | +.108 | -.177 | -.071 |
3-0 | -.426 | -.111 | -.890 | -1.001 |
0-1 | -.052 | -.061 | -.127 | -.188 |
1-1 | +.160 | +.164 | +.456 | +.620 |
2-1 | -.058 | -.061 | -.254 | -.315 |
3-1 | +.161 | +.149 | -.124 | +.025 |
0-2 | -.003 | -.012 | +.052 | +.040 |
1-2 | -.011 | -.009 | +.016 | +.007 |
2-2 | +.090 | +.083 | +.289 | +.373 |
3-2 | +.059 | +.016 | +.172 | +.189 |
コース別詳細
対右投手


対左投手


球種別詳細
球種 | 打席数 | 打率 | 長打率 | wOBA | 空振り% | K% |
---|---|---|---|---|---|---|
4-Seam Fastball | 158 | .282 | .504 | .397 | 24 | 24.1 |
Slider | 101 | .220 | .407 | .310 | 36.5 | 32.7 |
Sinker | 94 | .337 | .570 | .406 | 10.7 | 11.7 |
Changeup | 79 | .310 | .620 | .434 | 30.4 | 17.7 |
Curveball | 76 | .229 | .400 | .301 | 37.3 | 31.6 |
Cutter | 39 | .412 | .647 | .487 | 22.8 | 10.3 |
Sweeper | 33 | .233 | .667 | .398 | 30.1 | 24.2 |
Split-Finger | 28 | .308 | .577 | .404 | 27.6 | 14.3 |
Slurve | 8 | .286 | .857 | .494 | 14.3 | 25 |
Knuckleball | 2 | .000 | .000 | .000 | 0 | 0 |
Screwball | 1 | 1.000 | 1.000 | .900 | 0 | 0 |
- データ参照先
-
「カウント別詳細」のデータは baseballreference.com を参照しています。
「コース別詳細」および「球種別詳細」のデータは baseballsarvant.mlb.com を参照しています。