シンシナティ・レッズの象徴となりつつあるエリー・デラクルーズ選手。
「エキサイティング」「規格外」という形容がこれほど適切な選手も珍しいですね。
約198cm(MLB公称)という恵まれた体躯が生み出すパワーはもちろんなのですが、高身長にも関わらず現在のMLB有数の遊撃手であり、かつ、盗塁王の獲得経験があるという型破りな活躍を見せています。
2025年は、シーズン後半に長打が出ず打撃面で苦しむこともありましたが、シーズン全試合出場を果たし、fWARは4.3とチームに大きな貢献をしました。
2025年のハイライトは、お姉さんであるジェネリス・デラクルーズ・サンチェスさんへの惜別の本塁打。
亡くなった翌日、カブス戦への出場をフランコーナ監督に自ら志願し、本塁打を放った際には、ホームで空を指差し、両手でハートのジェスチャーをしてお姉さんに捧げていました。
デラクルーズ選手の概要と成績(2025)
常識外のスケールをもたらす圧倒的な能力
2023年にMLBデビューを果たし、わずか数ヶ月でその規格外な身体能力がリーグ全体の話題となりました。
外見の想像とは異なり、Statcastによると最も優れているツールは走力で、盗塁だけでなくベースランニングも優秀です。
次に評価が高いのは守備で、優秀なフィールディング能力を持つエリートが集まる遊撃手の中でも平均以上の守備力を見せています。
細かいプレーが要求される走塁や守備で評価が高いというのは、あれだけの高身長の身体に対してもうまく操縦できる運動神経・身体能力を兼ね備えている証左なのでしょう。
打撃に関しても2025年はOPS+ 109とリーグ平均を上回っているのですが、詳細は後述の「スウィングデータとバットトラッキング分析」で見ていきます。
| 打率 | 本塁打 | 打点 | 出塁率 | OPS | +OPS | BB% | K% | 盗塁 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| .264 | 22 | 86 | .336 | .777 | 109 | 9.6% | 25.9% | 37 |
※2025年度成績
カウント別の打撃傾向
MLB打者(2025年)の平均的傾向 2ストライクでの打撃成績は打率・出塁率・長打率すべてで急降下
- 各ストライクでの打率/出塁率/長打率
- 0ストライク .337/.395/.588
- 1ストライク .327/.393/.535
- 2ストライク .169/.245/.267
デラクルーズ選手のカウント別傾向をまとめると下記の通りです。
- 初球スイング率37.8%はMLB平均(32.1%)を上回り、積極的にアプローチしてくる傾向があるが、フォーシームへの初球スイング率は39.7%に対してカーブは27.0%としっかりとねらいは絞っています(結果、初球打率.355、OPS 1.000という好結果にもつながっている)。
- 1-1カウントが最大の強みで、打率.491、OPS 1.509はMLB平均を+.643上回る圧倒的な数字。
- 0-1、0-2、1-2といった投手有利のカウントでは、打率 .197、OPS .503と急落。2ストライクでのボールゾーンのスイング率(チェイス率)も高く、1-2で38.2%、フルカウントでは47.2%。
- 左右の打席で大きな差があり、左打席では投手有利カウントでも打率.231/OPS .601と持ちこたえますが、右打席では打率.135/OPS .324まで落ち込みます。特に、右打席は、追い込まれた後の変化球対応が深刻です(スプリットは打率.000(9打数無安打)、カーブは.136)。
カウント別詳細
個人
| カウント別 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
|---|---|---|---|---|
| 初球 | .355 | .355 | .645 | 1.000 |
| 1-0 | .405 | .395 | .568 | .962 |
| 2-0 | .231 | .231 | .462 | .692 |
| 3-0 | .500 | .958 | .500 | 1.458 |
| 0-1 | .273 | .289 | .295 | .584 |
| 1-1 | .491 | .491 | 1.018 | 1.509 |
| 2-1 | .316 | .316 | .474 | .789 |
| 3-1 | .250 | .690 | .333 | 1.023 |
| 0-2 | .138 | .152 | .169 | .321 |
| 1-2 | .200 | .200 | .380 | .580 |
| 2-2 | .137 | .137 | .176 | .314 |
| 3-2 | .264 | .443 | .460 | .903 |
MLB平均との差
| 平均との差 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
|---|---|---|---|---|
| 初球 | +.017 | +.008 | +.068 | +.075 |
| 1-0 | +.070 | +.055 | -.017 | +.037 |
| 2-0 | -.109 | -.111 | -.173 | -.285 |
| 3-0 | +.113 | +.007 | -.359 | -.352 |
| 0-1 | -.047 | -.039 | -.209 | -.248 |
| 1-1 | +.163 | +.156 | +.487 | +.643 |
| 2-1 | -.013 | -.017 | -.083 | -.101 |
| 3-1 | -.101 | -.025 | -.312 | -.337 |
| 0-2 | -.018 | -.012 | -.063 | -.076 |
| 1-2 | +.039 | +.033 | +.136 | +.169 |
| 2-2 | -.034 | -.039 | -.094 | -.133 |
| 3-2 | +.071 | -.007 | +.127 | +.120 |
コース別・球種別の打撃傾向
対右投手のコース別打率

最も打率が高いのはインコース高め(.444)とインコース低め(.429)で、身体に近いコースを仕留める能力が際立ちます。真ん中付近も打率.339と危険ゾーンです。
一方、アウトコース低め(.163)とアウトコース外のボールゾーン(.097)は明確に数値が低く、外角低めのボール球ゾーンは最も安全なエリアです。
左打席では全体的にスイング判断が安定しており、ゾーン内スイング率64.2%に対し、ゾーン外スイング率は28.5%と抑えられています。
追い込まれた1-2カウントではゾーン外のスイング率が38.2%まで上がるという点は、配球のヒントになります。
対左投手のコース別打率

インコース高め(.667)が目を引きますが、打数9とサンプル数が少ない点は考慮した方がよいかもしれません。
真ん中(.391)は安定して打てています。
一方、インコース低め(.053)は19打数1安打と対右投手のインコースの強さとは対照的で、右打席の明確な弱点です。また、アウトコース高め(.000)も5打数無安打で、高めの見極めができていません。
右打席では全体のOPSが.611にとどまり、投手有利カウントに追い込まれると打率.135/OPS .324と数値がかなり悪化します。
球種別の打撃成績
最もよく投じられるフォーシームに対してはwOBA.398とかなりの好成績を残しています。
ただ、この数字は左打席(vs右投手)で打率.312/OPS 1.057と引き上げられている面が大きく、右打席(vs左投手)では打率.231/OPS .574まで落ちます。
シンカーは打率.346と全球種で最も高い数字ですが、スイング率を確認すると、41.6%と2番目に低い値にとどまっています。 ゾーン内に来たときのスイング率もフォーシームの66.6%に対し58.3%と差があり、見逃しストライク率もフォーシームより高くなっています。
つまり、フォーシームを待っているカウントでシンカーが来ると軌道の違いに反応しきれず見逃す傾向があり、打率が高いのは「振れた球がたまたま甘かった」という選球の側面もありそうです。
シンカーの軌道を見極めてゾーン内を積極的にスイングできるようになれば、さらに成績が伸びる余地があるとも言えます。
一方、スプリットは打率.103、wOBA .167と最大の弱点です。 空振り率39.7%は全球種で最も高く、特に右打席では打率.000(9打数無安打)と完全に封じられています。
スウィーパーも42.9%と三振率が非常に高く、カーブも37.8%で、変化の大きな球種に苦戦する傾向があります。 左右の打席で濃淡があり、右打席での変化球対応がより深刻です(カーブ打率:左.234 vs 右.136)。
球種別詳細
| 球種 | 打席数 | 打率 | 長打率 | wOBA | 空振り% | K% |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 4-Seam Fastball | 217 | .290 | .560 | .398 | 31.7 | 24.9 |
| Changeup | 119 | .261 | .396 | .326 | 35.9 | 18.5 |
| Slider | 88 | .277 | .410 | .311 | 30.5 | 27.3 |
| Curveball | 74 | .203 | .377 | .276 | 33 | 37.8 |
| Sinker | 60 | .346 | .500 | .412 | 21.3 | 21.7 |
| Cutter | 56 | .296 | .444 | .349 | 20.8 | 16.1 |
| Sweeper | 35 | .226 | .387 | .311 | 36.5 | 42.9 |
| Split-Finger | 33 | .103 | .103 | .167 | 39.7 | 33.3 |
| Slurve | 4 | .000 | .000 | .000 | 71.4 | 100 |
| Slow Curve | 1 | .000 | .000 | .000 | 100 | 100 |
| Eephus | 0 | .000 | .000 | .000 | 0 | 0 |
バッテリーの攻略ポイント
ここまでのデータを踏まえて、デラクルーズ選手に対する配球戦略を考えてみます。
早いカウントで追い込むことが最優先。 初球はストライクゾーンの甘いコースを避け、コーナーやボール球で入るのが安全でしょう。追い込んだ後はチェイス率も急上昇するため、ボール球を使った攻めが有効になります。
スプリットや変化幅の大きな球種を効果的に。 スプリット(空振り率39.7%、打率.103)、スウィーパー(三振% 42.9%)、カーブ(三振% 37.8%)はデータ上明らかに有効な球種なので、勝負球として使いたいところです。
左投手の場合、フォーシームが中途半端な高さにいかないように気をつける、カーブ、スプリットといった変化の大きな球種を織り交ぜてカウントを支配することがポイントと言えそうです。
右投手の場合は、アウトコース低め中心の組み立てを意識します。
左打席のデラクルーズ選手はインコースに強い一方、アウトコース低め(.163)と外角ボールゾーン(.097)は明確に弱いエリアです。
フォーシームやシンカーを見せ球にしながら、最終的にアウトコース低めのスプリットやスライダーで仕留める組み立てが理想的でしょう。
シンカーはゾーン内に来ても見逃す傾向があり(スイング率58.3%)、カウント球として有効に使える場面があります。
スウィングデータとバットトラッキング分析
MLB.comが提供するスタットキャストに2024年5月に追加された「バット・トラッキング」から抜粋しています(用語の説明は別途)。
順位が高い方がよいものももちろんありますが、各選手のスウィングの個性が現れます。
スウィングの個性が現れた例
大振りパワーヒッターの典型であるスタントン選手とこれまた安打製造機の典型であるアライズ選手の比較がこちら。
スウィングにパワーを持たせたいスタントン選手は平均バット・スピード、ファスト・スウィング率(75マイル/h以上のスウィング)でMLBトップの数字であるが、コンパクトなスウィングでバットの芯(スウィートスポット)に当てることに長けたアライズ選手はなんと平均バット・スピード、ファスト・スウィング率でMLB最下位。
一方、どれだけ芯に近い場所で打つことができたかを示すスクエア・アップ率はアライズ選手がMLBトップで、スタントン選手はMLB平均以下。
ちなみに、ボールに当たるまでのスウィングの距離を測る「スウィング軌道距離」でも、スタントン選手がMLB最長、アライズ選手がMLB最短と両極端な個性が指標から読み取れます。
| 平均バットスピード | ファストスウィング率 | スウィング軌道距離 | スクエアアップ率 | |
|---|---|---|---|---|
| スタントン | 81.3m/h | 98.7% | 8.6ft | 20.8% |
| アライズ | 63.2m/h | 0.3% | 6.0ft | 43.9% |
バット・トラッキングから見たスウィング特性
デラクルーズ選手のスウィングで最も注目すべきは、左右の打席でまるで別の打者になるという点です。
デラクルーズ選手は本人が「元々は右打ちが自然」と語っており、8歳頃にスイッチヒッティングを始めたとされています。
ところがバットトラッキングのデータを見ると、後天的に習得したはずの左打席のほうがバットスピードが速い。
左打席の平均バットスピードは76mphで、これはフアン・ソトやヨーダン・アルバレスに並ぶ水準である一方、右打席は73mphとMLB平均はやや上回るものの、左打席から3mph落ちます。
スクエアアップ率にも差が出ており、左打席の25%に対して右打席は19%。
ファスト・スウィング率45.0%(39位)はMLB平均26.1%のおよそ1.7倍という高数値ですが、芯で捉える精度は左打席の方が高いです。
右打席ではチェイス率も左打席より高く(31% vs 25%)、ゴロ率も上がります。
打撃成績の左右差(左打席OPS .841 vs 右打席OPS .611)は、こうしたスウィングの質の違いがそのまま結果に表れたものです。
全体のスクエアアップ率23.8%(149位)はMLB平均25.9%を下回っていますが、ブラスト率14.1%(55位)はMLB平均11.9%を上回り、芯で捉えたときの破壊力は十分です。
バレル率10.2%(97位)もMLB平均9.2%を上回っており、「当たれば飛ぶ」スウィングの強さはデータが示す通りです。
シーズン後半のスウィング変化
2024年にキャリアベストを記録したデラクルーズ選手ですが(バレル率12.7%、スイート・スポット% 35.7%)、2025年は7月末に大腿四頭筋の部分断裂を負いながら162試合にフル出場した影響で、パワー指標が大きく変動しました。
前半と後半を比較すると、Exit Velocity(出口速度)やハードヒット率はほぼ横ばいだったにもかかわらず、バレル率は15%から5%に急落、HR/フライボール率は23%から6%に低下しています。
打球の速さ自体は維持されていたものの、下半身で踏ん張れず打球に角度がつけられなくなっていた状態と考えられます。
カウント別の分析で見えた「後半のチェイス率悪化」や「フォーシーム打率の低下」も、このスウィングの土台の崩れと地続きの現象と言えそうです。
2026年のスプリングトレーニングでは、2025年後半に試していたハイブリッド・トータップを廃止し、2024年型のレッグキックに戻したとも報じられています。フォーム変更、大腿四頭筋の回復によってスウィングがどう変わるか、シーズン序盤の数字に注目です。
| 2025 | 個人 | MLB順位 | MLB平均 |
|---|---|---|---|
| 平均バットスピード | 74.5m/h | 37 | 72.0m/h |
| ファスト・スウィング率 | 45.0% | 39 | 26.1% |
| スウィング軌道距離 | 7.2ft | 78 | 7.3ft |
| スクエア・アップ率 | 23.8% | 149 | 25.9% |
| ブラスト・スウィング率 | 14.1% | 55 | 11.9% |
| バレル率 | 10.2% | 97 | 9.2% |
- データ参照先
-
「カウント別詳細」のデータは baseballreference.com を参照しています。
「コース別詳細」および「球種別詳細」のデータは baseballsarvant.mlb.com を参照しています。